季節の変わり目でもあり、暑さが長引いての不調もあって、「寝つきが悪い」「途中で起きる」「イライラ、クヨクヨする」などの相談が増えています。
一人目の方は「不安で仕方がない。」とのことなので、心肝血虚の漢方を用意していたら、最後に「このままでいいのかなどの焦りが出て来て」と話されて、もう一度問診を取り直して処方を変更しました。
不安なのは、焦る気持ちが嵩じての症状のようです。その場合は心腎不交からの症状と考えます。「心」と「腎」は絶妙なバランスをとって心身を整えてくれていますが、その交流がうまくいかない状態です。
水を司る「腎」の水が不足して、「心」の熱を冷ますことができなくなって、心の熱が原因の、上に向かう無軌道な「気」の上昇を制御できなくなっている状態と考えます。だから、焦ったり、不安になったり、眠れなかったり、動悸がしたりする症状がでます。
気の上衝を直す生薬と安定剤と言われる生薬の処方をお渡ししました。
その後の方は「不眠」の相談でしたが、やはり「焦り」や「驚きやすい様子」から同じ処方と肝気うっ血の漢方。「驚きやすい」ことも腎の力が弱ってる状態と言われます。
メンタルの漢方だけでも様々な処方があります。少しでも早くよくなってもらえる処方を選ぼうとするため、初回は特に時間がかかります。了承の上でご相談頂けると助かります。よろしくお願いします。
処方名がある漢方薬を構成するものは「植物生薬」が多いのですが、「動物生薬」も昔から長い年月に亘って使われ続けています。
「鹿茸」、「鹿角膠」、「レイヨウカク」、「牛黄」、「麝香」、「亀板」など。
これらは希少なため「高貴薬」とされてきましたが、「植物生薬」と比べると速攻性があったり、植物生薬で補いきれない症状や生きる力そのものに作用したりするようです。
例えば「麝香」。シャネル5番に使われているそうです。体の中の全ての「穴」を通すとされるので、ストレスをこじらせてしまった時に、体の中の気の滞りを早く流しだしてくれるようです。ストレスからくる症状や、眠れない、寝ても疲れが取れない、旅行のお守りなどに使われます。
「レイヨウカク」は、忙しくて頭がいっぱいいっぱいの時に、頭の中に風を通して思考を整理しやすくする感じでしょうか。集中力が続かない、物事がなかなか思い出せなくなった時や、忙しくて自律神経が疲れた時の症状、目の疲れなどにも使われます。
「鹿茸」「鹿膠」は、生きる力「腎精」を補うので、成長・生殖・老化など各段階で体を立て直してくれるようです。夜のトイレで悩む女性の方や、骨の数値改善を期待して続ける方が多いです。
ゆっくりと穏やかな植物生薬、比較的即効性がありシャープな動物生薬。体調に合わせて使い分けてもらえれば、不調から抜け出す近道になると思います。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があります。
「レム(REM=Rapid Eye Movement)睡眠」とは、急速眼球運動を伴う睡眠。脳は活動していますが、体の筋肉の緊張はなくなるので「体の眠り」と言われます。
「ノンレム睡眠」では、眼球運動がなく、脳が休息しているといわれています。
眠りが浅いレム睡眠の時に、昼間の出来事や心配事が浮かんで、神経が高ぶって目が覚めたり、夢ばかり見てなかなかノンレム睡眠に入れなかったりすることも、睡眠障害の一種です。
ノンレム睡眠が充実しないと、ノンレム睡眠の時に分泌される成長ホルモンの分泌が低下しますし、腎の力(生きる力)が作られにくくなり、免疫力が低下します。
抗ストレ作用があると言われる「GABA」の合成もノンレム睡眠時に行われるので、ストレスを抱え込みやすくなり、悪循環となります。
「夜目が覚める」「夢ばかりみる」ことも、体からの信号です。まずは気の滞りを回復させるよう工夫してみてください。散歩やリラックスできる趣味、シソの香りや好きなアロマも有効です。
漢方では、全身の気の停滞には動物性の生薬が速攻しますし、コウボクやモクツウなどを含む漢方が合う方も多いです。
睡眠中に、頭は昨日の経験を取捨選択して記憶を整理し、ストレスからの回復をはかり、明日の活力を養っています。睡眠を大事にして、なるべく熟睡感が得られるような生活を心がけたいものだと思います。
胸の診察では問題が無いのに上の症状があれば、「柴胡や枳実、香附子、陳皮」などが含まれる漢方をお勧めします。軽ければ、5日ほどの服用で良くなられるようです。
ストレスが強いときは、自律神経を司る「肝」の力が落ちるため、体の中の気や血を巡らせる力が弱くなり滞ります。滞った器官の動きが鈍くなり、胸が張ったり、息苦しくなったり、痛んだり、げっぷやガスが多くなったりします。「憂鬱感、不安感、不眠」などの症状もでます。
これは、ストレスに耐え切れなくなっている「体からのサイン」です。軽く考えないで、ひどくなる前に仕事や生活をみなおしてください。
人は、ストレスがある最中は、案外乗り切ってしまいます。
けれども、乗り切った2.3か月後に体からの「反撃」がきます。相談に来られる方にお聞きすると、大抵発症の2.3か月前に、無理をして辛いことを乗り切られた経験を話してくださいます。今頑張ってる方も、体のサインに気を付けながら、無理しないでくださいね。
漢方で不思議なのは、同じ時期に同じ処方が何人も出ることです。
最近の1位は気の滞りの漢方です。生真面目、几帳面な方、きちんと仕事を済まさないと気が済まない方に合います。こういう方が煮詰まると、のどが詰まったり、食べ物の通りが悪くなったり、声が出しにくく、しわがれ声になたり、ガスが溜まったり、ゲップが多くなったりします。
これは、ストレスの初期のSOSです。早めに服用すると2週間くらいで、「クドクドと同じことばかり考えてたのが治った」「ネガティブ思考だったのが、前向きになった」「喉がつまってウッとなっていたのが無くなった」と、その効き目に驚かれます。この段階で気のめぐりを良くしておくと、ストレス障害をこじらせずにすみます。不眠の漢方と一緒に服用して、眠りの質を高める手伝いもしてくれます。我慢せずに、早めの対応をお勧めします。
生薬の不思議。植物系の生薬が多い漢方ですが、精神的な症状に、「竜骨」と「牡蛎」の組み合わせが使われます。
竜骨は、象
など巨大哺乳類の骨の化石。牡蛎は、牡蠣の貝殻です。「鎮静・安心作用」があると言われます。ともに豊富に含まれている「カルシウム」が、イライラなどを鎮めるのに必要だと言われ始めたのは、最近の事。2000年前の人が、その効果に気づいていたことに、いつも驚かされます。イライラ以外の不安や恐れにも効くので、カルシウムだけではない含有物が、漢方の効き目となってるのだと思います。同じように竜骨牡蛎が含まれていても、使い方はいろいろなので、近くの漢方薬局にご相談ください。
微熱が続くの場合でも、ストレスが原因の場合は、微熱の他に倦怠感や不眠などの症状があります。この場合は、酸棗仁、人参、竜眼肉、遠志などが入った漢方などを選びます。
このタイプの人は、不安感が強くて肝が据わらないので、安心して深い眠りに入ることができないため、夢が多いですね。夢の内容が「怖い夢」の人は腎(生きる力)も弱っています。「不安な夢」の人は肝(自律神経)と心(精神)を補うような漢方を選びます。夢の内容でも、その人の状態を知ることができるのも不思議です。「眠れましたー」と笑顔を見せてもらえると、本当に嬉しいですね。お大事に。